2010年6月24日木曜日

小胞輸送と片付けと

我ながら妙なタイトルです.(笑)

今日は非常勤講師の10回目でした.
今日のテーマは「小胞輸送」.
何せうちのラボのメインテーマですから,気合いを入れて準備をしました.

重要なメッセージは,

細胞の中では,膨大な数の,しかも非常に多くの種類のタンパク質が,さまざまな仕組みによって自分が働くべき場所へ送られ,その機能を発揮している.

ということです.

夕食後,今日は久しぶりに子供部屋の片付けをしました.
そして小胞輸送のすごさをしみじみ思ったのでした.

なぜって.
片付けが大変だったからです.
まず何が大変て.
子供のおもちゃって,レゴの小さいピースから,大きい車のおもちゃまで,大きさも,カテゴリも,本当にいろいろなのです.
例えば大まかなジャンルで分けると
【乗り物関連】
○トミカ系
○プラレール系
○その他の車
【戦闘もの関連】
○ウルトラマン系
○レンジャー系
○仮面ライダー系
○ポケモン系
【遊びの種類で分けると】
○レゴ
○その他のブロック遊び
○塗り絵
○パズル
○トランプ
○野球盤
○カードゲーム
○カルタ
○折り紙
○ガチャガチャカプセル系
○おままごと系
○知育系おもちゃ

これらがいっしょくたに部屋中に散らばっているカオスの状態から,
一つ一つ,これはどのカテゴリーだからどの入れ物に入れて,と選別していきます.

これは,細胞の中でタンパク質がそのシグナル配列を解読され,選別される過程に似てると言えるかもしれません.行き先も多数ですし,それぞれ運ばれるべきアイテムも実に多様です.おもちゃのピースはサブユニット,大きなおもちゃは巨大分子複合体みたいなものですかね.

これだけ種類が多いと,私も選別を間違ったりします.
「これってどこの部品だっけ?この箱でいいかな?」
「違うよ,これは,あのおもちゃの,どこそこの部品なんだよ」
と,息子がそれを修正してくれることもあります.
これは,選別に失敗したタンパクを回収し,あるべき場所に戻す作業に似ていると言えるかもしれません.

実は,細胞の中はもっともっと多種多様な分子が,ほとんど隙間もないほどびっしり詰まっています.その上さまざまな区画を作り,さらにその間でさかんにやりとりをしながらも,それぞれの細胞小器官の機能をきちんと発揮しているのです.

オモチャ部屋の整理整頓も手間がかかる仕事ですが,細胞はもっと複雑なことを実にあたりまえに粛々とこなしている.

2人でかなり頑張って,久しぶりに片付いた子供部屋となりました.
きれいに片付いた部屋を見ながら,ああ,なんて細胞内輸送てうまくできているのかしら...としみじみ思った次第です.

2010年6月15日火曜日

はやぶさ追記

この週末はすっかりはやぶさに耽溺してしまいました.

帰還の瞬間は惜しくも見逃してしまったのですが(痛恨),ツイッター上で紹介される動画ですぐに追いかけました.
その後調べていったら,川口淳一郎教授は,高校の大先輩ということがわかりました.

そう言えば,はやぶさについては,多分軟着陸をした頃にメディアで取り上げられたのを見たことがあるような気がする...と記憶を辿ってみました.

2005年11月当時と言えば,まだ上の子が0才,単身帰国して復職した直後,あまりの慌ただしさに記憶があまりない頃です.(笑)
ただ,通信途絶,帰還は絶望的,という報道に,落胆した記憶があります.
「どうして日本はこううまくいかないんだろう」
当時の自分の生活も,いろいろなハードルの連続で,うまく回っていませんでした.
そのいらだちと重ね合わせていたような気がします.

その後,運用が再開されていたとは全く知らないまま(というかほとんど忘れ去ったまま)でした,ということをここに告白します.全く持って不明を恥じる次第です.

何度も致命的なトラブルに見舞われながら不死鳥のようによみがえったはやぶさ.
その偉業を讃えたい,もっともっと,多くの人と共有したい,
一生忘れないで次の世代に語り継ぎたいです.

「はやぶさという探査機がね,人類史上初めて,小惑星に到達して地球に戻ってくるという,当時はとても実現できそうもなかったミッションを,数々の困難を乗り越えて成し遂げたんだよ.」

2010年6月13日日曜日

はやぶさ

suikyoさんのツイートがきっかけとなって,はやぶさプロジェクトのすごさを知りました.
これは是非覚え書きしておきたい&皆さんにも知ってもらいたいので,こちらにも紹介しておきます.

まずは,
http://ow.ly/1XDdC
http://ow.ly/1XDdL
http://ow.ly/1XDe5
(ツイッターからの転記で,短縮URLになったりしています)

そしてもっとわかりやすいもの,
http://www.youtube.com/watch?v=6kZbeAK-vBE
http://ow.ly/1XCPP
http://ow.ly/1XCQO

人類史上はじめて,という取り組みがいくつもなされたこと,また,いくつものトラブルを不屈の精神で乗り越えて,ついに明日地球に帰還することに,驚き感動しています.
日本の宇宙開発事業の大きなマイルストーンであることは間違いありません.

明日,はやぶさは帰ってきます.
地球をソフトボールくらいの大きさと例えると,月は10円玉くらい.
月と地球の距離は3mほどだそうです.
そのたとえで言うと,太陽は1km先.
そして軟着陸をした小惑星イトカワはどのくらい離れているでしょうか.
そしてイトカワの大きさはこのたとえで言うと.

全部言ってしまうのもなんなので,是非動画をご覧下さい(最後に挙げたものに紹介されています).

2010年6月9日水曜日

ICARに参加しました

International Conference on Arabidopsis Research が6日の日曜日の午後から10日木曜までパシフィコ横浜で開催されています.通いで参加しました.

初日のKeynote lecture,シロイヌナズナ研究の大御所中の大御所,CALTECHのMeyerowitz教授の講演が,衝撃的でした.

ちょうど数理生物学的なものに興味を持ちはじめたところだったこと,また,イメージングでも単なるスナップショットではなく長いタイムラプス画像をベースにしていること,が,私のハートにどんぴしゃ来るものでした.

葉序(phyllotaxis)のパターンが,オーキシンの濃度とPin1のモデリングで見事に再現されていました.しかも,中心の細胞を除いてやったらどうなるか,ということをモデリングで予言し,実験的にも確認できた(レーザーで細胞を殺したら予言と同じ結果が得られた),というのが驚きでした.

最終日のPlenary lectureでも,葉序のモデリングの話がありました.こちらもとても見事に再現されていました.
--------------
ええと,もう少し解説を加えておきます.
葉序,というのは,大変簡単に言うと,葉のつき方,出方の規則性です.
その辺に生えている草や,野菜を少し注意深く観察すると,葉をはじめとする器官は大変精緻に配置されていることがわかることでしょう.葉序のパターンは種によって違います,いくつかのパターンに分類することができます.

葉序のパターンというのは,数学的な規則性があるため,古くから人々の興味を引いてきました.12世紀イタリアのフィボナッチが見いだしたフィボナッチ数列と関連しているということも有名です.

植物ホルモンオーキシンの濃度と,オーキシンを細胞から排出して隣の細胞へ移動させるPin1という分子の振る舞いを,いくつかの仮定のもとにコンピューターでモデリングしてやったら,自然にできる葉序と大変似た形成パターンが再現できた,ということです.
--------------
これらの発表を聞いて,
「数理生物学や理論生物学が,新たなフェーズに入った」,
という強烈な印象を持ちました.

こんな強烈な印象を持った発表は,10年ぶりくらいです.ちなみにそのときはGFPを使ったライブイメージングの話でした.その後数年で爆発的にシロイヌナズナ業界に広まりました.
モデリングもこれからしばらく,華々しい発展をするだろうと予想します.