2010年3月27日土曜日

電子書籍について改めて考えてみた

一つ前のエントリで,匿名さんから以下のようなコメントをいただきました.

「でもやはり本は紙じゃないとだめな気がします。そりゃ本はものによってはかさばるし、重いし、邪魔になることもあるかもしれないけど、やっぱり本は紙であったほうがいいと思います。少なくとも私は本の不便さが好きです。」

お返事を書いていたら一つのエントリにした方がいいのではないかと思ったので,整理して書き直してみようと思います.

【本は紙じゃないとだめかしら】

私も電子書籍を読むまでは,「本は紙じゃないとだめかも」という気持ちが,ほんの少しではありますが頭の片隅にありました.
でも,電子書籍を読んだあと,紙じゃなくてもいい場合,むしろ紙よりも便利な場合がある,ということをはっきりと認識しました.ただし,これは個人個人によって感じ方が違うだろうと思います.それはおそらく,読者/内容/対象/目的によって,紙の本がより優位な場合と,電子媒体の方が優位な場合とに分かれるからです.

【「電子書籍の時代が来る」と「紙の本がなくなる」はイコールではない】

私の言葉が足りなかったかもしれません,電子書籍の時代が来る,と書きましたが,紙の本がなくなる,ということを意図したものではありません.これは上述したこととも関連しますが,紙の本がより優位な内容/対象/目的の場合には,紙の本の比率は減らず,一方,電子書籍の方がメリットがある場合は,急速に電子化が進むでしょう.

実は既にかなり電子化が進んでいる本のジャンルがあることに気づきました.それは辞書と学術雑誌です.両方とも,「検索」の対象になるというのがポイントです.逆に紙の本がより優位な場合というのも考えられます,一つ大変簡単な例を挙げるとすれば,端末が入手しにくい経済状況であったりインターネットのインフラが未整備だったりする国や地域では,これから先もかなりの時間,紙の本の方が優位であり続けるでしょう.

【学術雑誌の電子化について】

一つ前のセクションで少し触れたので,理系の学術雑誌の電子化の過程を振り返ってみることにしましょう.一言で言うと,この10ー15年で状況は激変しました.

私は学術雑誌を読むとき,大学院時代には図書館に行ってコピーを取り,紙で読んでいました.1回目のポスドク時代にぼちぼち電子化される雑誌が出てきました.しかしたいていの雑誌は新しい号のものだけが電子化されていたので,数年前の論文を読みたい場合には,やはり図書館でコピーを取っていました.論文を書くとき,引用文献を集める作業が必ず必要になりますが,電子版で手に入るのは1/3程度だったでしょうか.
2回目のポスドクの頃になると,バックナンバーも電子化してオンラインで閲覧できる雑誌が徐々に増えてきました.論文の引用文献もほとんどがオンラインで集められる時代になりました.しかし今でもものによっては論文を書庫からコピーすることもありますし,文献複写依頼を出すことすらあります.

この状況からも見て取れるように,古い文献まで遡って電子化するというのには多くの労力と時間とお金がかかります.また,いかなるメディアに記録したとしても,最終的に一番耐久性があるのは紙だとも言われています.これらが紙媒体がなくならない大きな理由です.おそらく一般の書籍に関しても同じことが起こる,すなわち,超のつくベストセラー以外の既刊本が電子化されるケースは少なく,紙での出版も並行して進められるでしょう.
一方新刊の本に関しては,電子書籍にする様々なメリット(出版のコストが低い,返本分のコストがない,リンクを張ることができる,等)のため,ハードルは下がり,電子書籍の出版数というのは近い将来飛躍的に増えて行くことでしょう.これは,上述の学術雑誌で言うと,新しい号のものだけ電子化していた時代に似ています.

ちなみに現在では,冊子体を出版せず電子版だけにする雑誌も増えています.一般の本でもそういったものが出てくるでしょうか.ケータイ小説はある意味そういう体裁と言えるかもしれません.

【「やっぱり本は紙であったほうがいいと思います。」】

もちろん,そんな場合もあります!

本の大きさや質感が重要な場合,数カ所のページを見比べたい場合,書き込みやドッグイヤーをしたい場合,などなどでは,紙媒体に軍配が上がります.

ページをめくる行為自体がたまらない,ということもあるようです.

学術雑誌の閲覧はほとんど電子版に頼っている私ですが,ちゃんと読み込みたい場合はやはり今でもプリントアウトして書き込みをしてしまいます.(笑)

そしてこどもが最初に出会う絵本.これはずっと紙であり続けることでしょう.

「少なくとも私は本の不便さが好きです。」

不便さのどういったところが好きなのか,理由は書かれていませんが,匿名さんはきっと,とても本が好きな方なのでしょう.それも素敵なことだと思います.

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