2008年8月25日月曜日

就職までの道のり3

随分長いシリーズになってしまい,息切れしています。(笑)
続きです。

【修士1年】

サンプルをアクリル樹脂に包埋して1um程度に薄切し,様々な蛍光試薬で染色して顕微鏡観察する,という基本的な技術を習得しました。タバコの花粉形成過程を,詳細に追いました。また,当時先輩が開発していた,樹脂切片上での蛍光 in situ hybridization の技術を引き継ぎました。感度が悪いためその技術は今は埋もれていますが,これが,ぞっとするほど美しかった。

どんな論文にまとめようかとかそういうビジョンがあまりないままに,その作業だけを淡々をこなしていました。

また,CCDカメラなんてものは当時顕微鏡に搭載されていませんでしたので

○白黒のフィルムに
○暗いサンプルは4分とか露光して
○自分で現像し
○自分で印画紙に焼き
○自分で写真を組んでいました

写真を組む,ってどういうことかというと,

○目的の写真をナイスな方向にカッターで切り取り
○ギャラリー状に並べ
○転写式のシートでレタリングを入れ
○写真と写真の間に1ミリのテープを貼り
○4辺をまっすぐに切りそろえて完成

こんな感じです。
今と比較すると,

○CCDカメラでポチッと画像撮り
○露光も長くて10秒
○フォトショップで切り抜いて並べ
○フォトショップでレタリングを入れる(エレ・タッチというのが便利)

はい,言いたいことは,昔の組み写真て,本当に手間がかかりました。
なので,学会前とか,セミナー前とかは,暗室に半日こもるとかいうこともざらでした。
(それが深夜だったりもして。今思うと怖い。)

こういう作業「やってられるか〜!!!」ってひっくり返したくなる方もいるようですが,
当時の私にとってこれらの行程はそんなに嫌じゃなかったようで。
最後に出来上がる「絵」のような組み写真。自分の「作品」だなぁ,って思えまして。

6月頃だったでしょうか,出来上がった組み写真を最初に教授に見せたとき,すごくほめてもらいました。
(この頃一番ほめられた。「あなたは形態のセンスがある」)

・・・で,気を良くした私。またいそいそと顕微鏡写真を撮り,

時間ばかりがビューーーン!と過ぎて行ってしまったのでした。

(濁流に飲まれてます)

そんなこんなしているうち,

【ふと気がつくと修士2年の夏】

になっちゃったりするわけです。
教授は,
「どんな小さなことでもいいから新しいなと思えることは論文にしておきなさい」
ということを本当に何度も何度も何度もおっしゃっておられました。
同じ研究室の同級生で,M2のこの頃に既に3報書いて投稿していた人もいました。
私は,自分が考えたテーマであるにも関わらず,
「何をどうすれば論文になるのかさっぱりわからない」
まま,ここまで時間を使ってしまったことに焦りながらも,論文については何も手をつけられないでいました。

(また,濁流に飲まれてます。一方3報書いた彼は,着実にロープを張るポイントを見つけている,と言ってもよい。)

【学会〜修論〜学振面接で落ちる】

はじめての学会で,ああもしかして漫画家の修羅場ってこんな感じなのかも,と思いました。

暗室が予約でいっぱいなので夜中やるしかなく,貫徹後一日なんとか過ごし10時間寝てしまう,
(今思うと本当に効率悪い。。。)

自分の口頭発表のスライドと,関連集会のポスターを作り,徹夜あけでそのまま金沢へ。
(今思うと当時は体力あったなぁ。。。)

学会が終わったあとはそのまま止まらない機関車のように修論の準備へ。

なぜか学術振興会のDC1に書類で通り,これまた徹夜でポスターを作り,発表に臨みました。
フワフワしていた私は,どういう手応えだったのかもよくわかりませんでした。
ただ,面接まで行って落ちた,というのをあまり聞いたことがなかったので,なめてかかっていたのでしょう。

所属していた研究室では修論は英語で書くきまりになっていました。

私の修論の面倒を見てくださった助手の方は,あまりのストレスに500円大のハゲが2個もできてしまいました(その後恐ろしくて1年くらいまともに口がきけず。。。)。

最後の土壇場での教授の指導,それにもとづき先輩たちがいろいろと手助けをして下さり,
助手の方は文章をみてくれて,

修論の提出の直前,

「学振不採用」

の連絡が来ました。これは,精神的にかなりキツかった。
教授に報告しに行ったとき,涙が出てしまいました。でも,教授は,
「泣いてもどうにもならないんだよ。
 泣いても論文が出る訳ではない,
 泣いても学振が通るわけじゃない,
 これから先の就職もしかり。
 論文を書くことだよ。
 夏くらいからずっと論文を書いておきなさい,と言ったでしょう。」

夏の間に3報書いていた彼は,通過していました。

教授の言うことは,まったくもっておっしゃる通り,でした。
これは,今の私にとっても,肝に銘じなければならないことです。

(つづく)

PS この頃を思い出していたら,当時の研究室の夢を見ました。
私がなぜかRPDに応募していて,先生に呼び出されて怒られそう,という夢でした。(笑)
あ,そうそう,今日はその先生にコドモと夫と一緒に会いに行きます。

4 件のコメント:

ママ研究者 さんのコメント...

ちえこママさんの描写、おもしろい!です。
情景が目に浮かんでくるというか。小説チックです。

> 本当に手間がかかりました。

そうそう、昔は本当に、何でも時間がかかりましたよね。ホットのシークエンスとか。文献検索もえらい時間かかってましたし。

それに比べて、今は便利だなぁと思いますが、よく考えたら、みんなも便利になってるんで、大変なのは一緒か、って思っちゃいました。

ちえこまま さんのコメント...

ママ研究者さん、コメントありがとうございました!

> ちえこママさんの描写、おもしろい!です。
> 情景が目に浮かんでくるというか。小説チックです。

ありがとうございます。照れまちゃいます。

> そうそう、昔は本当に、何でも時間がかかりましたよね。

便利な世の中ですよねー。でもおもしろいのは、その当時でも、「昔はね、もっと大変だったのよ。今は便利でいいわね」という話があったこと。

つまりは、ママ研究者さんもお気づきのように、

> 大変なのは一緒か、って思っちゃいました。

その通り~。^o^

匿名 さんのコメント...

一連のエントリで、ちえこままさんが顕微鏡に魅せられていった様子がとても良く分かります!

K先生に「形態のセンスがある」と言われたんですよね!すごいです!

ちえこまま さんのコメント...

suikyoさん、コメントありがとうございます!

> K先生に「形態のセンスがある」と言われたんですよね!

その後、学年を重ねるごとに、
「ちえさんは昔のほうが写真上手だったなぁ、わっはっは」と言われましたが。^^;;;